神の口笛
第5章 5
…
このまま抗争なく2年が経つものと、誰もが思っていた。
油断していたと言ってもいいだろう。
しかし、ガルダン基地から遠く離れた北の地で戦が始まってしまった。
防衛軍には異動という仕組みこそないが、しばらく援護にあたるため派遣要員となる事はある。
この抗争でグレイを含む160名ほどが派遣されると発表された午後、エマは訓練に身が入らないまま浮かない気持ちで弓矢を放っていた。
エマの見えない場所で、いつ終わるかも分からない戦…。
これまでにもあったのに、今はより一層それを拒みたい自分がいる。
…
翌日、派遣される兵士たちが整列している。
基地に残る者たちもまた整列し、代表者が激励の言葉を送った。
祈りの儀式を終え、思い思いの人間にしばしの別れを告げる中、グレイとエマは互いに探し合い、すぐに見つけ合った。
「グレイ…。」
「どうした。そんな顔をするな。」
「ん…。」
グレイが向かう北の地までは、馬に乗っても到着まで丸1日以上かかる。
そしてなにより、北の地は「フィーラ軍団」という集団の本拠地でもある。
神などいないという無神派であるフィーラは、前回の戦でも相互に大きな損傷があった相手だ。
「すぐに戻る。が、もし長くなったら…――」
グレイが自らの胸元に手を突っ込み、なにかを取り出した。
「何?」
「これを読め。」
手には封筒が握られていた。
黄土色のシーリングワックスでしっかりと封がされていて、中央には”Dear Emma”と達筆な文字が走っている。
「文字は……。」
「大丈夫だ。今まで教えた文字しか使っていない。ゆっくり読めば理解できる。」
「うぅん…。」
「分かったな。」
「分かった…。」
「よし。」
グレイは、くしゃっとエマの髪を撫でた。
「グレイ…。待ってるから…。」
「ん。大丈夫だ。」
しっかりと頷き、凛々しい背中を向けて去っていくグレイ。
エマはいつまでもいつまでも見送っていた。
そばで気に入らなそうに彼女を見つめる、ビアンカの視線にも気付かずに。
このまま抗争なく2年が経つものと、誰もが思っていた。
油断していたと言ってもいいだろう。
しかし、ガルダン基地から遠く離れた北の地で戦が始まってしまった。
防衛軍には異動という仕組みこそないが、しばらく援護にあたるため派遣要員となる事はある。
この抗争でグレイを含む160名ほどが派遣されると発表された午後、エマは訓練に身が入らないまま浮かない気持ちで弓矢を放っていた。
エマの見えない場所で、いつ終わるかも分からない戦…。
これまでにもあったのに、今はより一層それを拒みたい自分がいる。
…
翌日、派遣される兵士たちが整列している。
基地に残る者たちもまた整列し、代表者が激励の言葉を送った。
祈りの儀式を終え、思い思いの人間にしばしの別れを告げる中、グレイとエマは互いに探し合い、すぐに見つけ合った。
「グレイ…。」
「どうした。そんな顔をするな。」
「ん…。」
グレイが向かう北の地までは、馬に乗っても到着まで丸1日以上かかる。
そしてなにより、北の地は「フィーラ軍団」という集団の本拠地でもある。
神などいないという無神派であるフィーラは、前回の戦でも相互に大きな損傷があった相手だ。
「すぐに戻る。が、もし長くなったら…――」
グレイが自らの胸元に手を突っ込み、なにかを取り出した。
「何?」
「これを読め。」
手には封筒が握られていた。
黄土色のシーリングワックスでしっかりと封がされていて、中央には”Dear Emma”と達筆な文字が走っている。
「文字は……。」
「大丈夫だ。今まで教えた文字しか使っていない。ゆっくり読めば理解できる。」
「うぅん…。」
「分かったな。」
「分かった…。」
「よし。」
グレイは、くしゃっとエマの髪を撫でた。
「グレイ…。待ってるから…。」
「ん。大丈夫だ。」
しっかりと頷き、凛々しい背中を向けて去っていくグレイ。
エマはいつまでもいつまでも見送っていた。
そばで気に入らなそうに彼女を見つめる、ビアンカの視線にも気付かずに。