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神の口笛

第5章 5



「エマ、最近やる気なさすぎだよ?!」

ステラがまくしたてる。

「んんぅ~…」

「ん~、じゃないのっ!」

布団を引き剝がされ、エマはしぶしぶ起き上がった。



グレイがいなくても、今日も訓練はある。

派遣隊が基地を出発して3日が経つ。

食堂ではまわりの男兵士の会話に耳を澄ますが、戦地の情報は入ってこなかった。


「…むぅ。」

「なによ?不機嫌ねぇ。グレイさんがいなくて心配なのは分かるけど…今こそ、ちゃんと訓練しておかないと。ね?」

「…うん。」


分かってはいても、訓練にまるで身が入らない。

ビアンカに負けても大した感情は生まれなかった。









派遣隊が出発して1週間が経った。

未だ帰っても来なければ、戦がどんな状況なのかという情報もエマまでは届かなかった。


「ルイがいたら聞けたのに…。」

「仕方ないよ。北の地はフィーラ軍団の本拠地だし…。でもさ、強い人は皆行ったんだから負けるわけない。絶対!」

ステラは食堂のテーブルに拳をどかんと叩きつけて言った。



私たちは防衛軍の兵士だ。

これまでだって戦はあった。

今よりもっともっと長い間、会えなかったことだってある。


でも…

グレイとキスをしたあの日から、"彼が戦地で命を落とすかもしれない"と急に怖くなった。


それまでのエマといえば、大祭りを楽しみにしながら、たまに食べられるトマトに喜び、休養日にはたっぷり寝るのが日課で、…ただそれだけだった。

もちろんグレイのことは大切だったが、あの日以来これまでとは違うなにかしらの感情が湧いている。



「んん…。」

寝床に入ってもまったく寝付けない。

少し離れたベッドではステラがぐうぐうとイビキをかいている。


エマはそっと起き出し、机の引き出しをあけた。

もしも帰りが遅くなったら読めと、グレイが残していった手紙を手に取る。


もう、1週間経った。もう、読んでもいいよね…。

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