神の口笛
第5章 5
ステラを起こさぬようランプを灯し、ベッドに座って封筒を丁寧に破く。
"俺がそばにいない間も、真面目に訓練に励むこと"
"しかし、無理はしないこと"
"トマトの水やりを忘れるな"
エマが読みやすいよう、文字と文字の間がひろく取られた文章だ。
かたい文章で、いくつか掟のように箇条書きになっていた。
時間をかけて一文字ずつ読んでいくエマは、箇条書きを読み終えると微笑んだ。
「なにこれ。ふふっ」
下部には、短い追伸があった。
"P.S. 基地に戻ったら、肩でも揉んでくれ。"
"You are always in my heart."
――読み終わる時、エマの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
グレイに会いたい…。
そして同時に、戦の状況がさらに心配にもなった。
…
それから4日後の朝。
北の地の戦が鎮火したと全兵士に通達があった。奇跡的に死者は無し。
派遣隊はちょうど10日間の間、フィーラ軍団やその他の勢力と戦っていたことになる。
これからすぐ帰路に着くとしても、会えるのは明日の昼頃だろうか。
しかし、やっと会えるという思いは儚く散った。
また別の基地で戦が起き、その場所は皮肉なことに、南の地だった。
しかも、腕の立つ者は北の地に出払っている今。
上層部も、エマたち兵士も、不安を否めなかった。
「それでも、行くしかないもんね。」
自分を納得させるようにステラが言い、エマも頷いた。
ガルダンは最大規模のため、まずは周りの小さな基地から狙われるのが常だ。
今回の相手は、人数は少ないが、火炎ビンやボウガンをも使って危険な戦い方をする過激派。
作戦上、至近距離での戦いは危険を極めるため、まずはエマを含む弓兵が多く派遣される事になった。
その日のうちに出発し、道中でエマはまたグレイを想った。
結局会えないまま…2人別々の戦地。
せめて、しばしの別れの挨拶ができたら良かった…。
だが、戦は待ってくれない。