
神の口笛
第6章 6
焼けた戦地のにおいが薄れ、だんだんと新鮮な空気が体内に取り込まれていく。
葉の季節もそろそろ終わりを迎え、白の季節がやってくる。
冷たい空気が皆にそれを知らせる中、エマはいつの間にか、グレイの膝枕で眠っていた。
…
戦闘は鎮火したものの、太もものケガによってエマは熱を出した。
平気だというエマを制し、「しばらく医療棟で過ごすように」とオリバーは言った。
古びたカーテンで区切られているベッドに横になり、外を眺めた。
いつもと変わらない基地の風景だが、うっすらと雪が降り始めている。
「エマ。熱はどうだ?」
グレイが濡れた布巾を持ってやってきた。
「まだ下がらない…。注射したのに。」
「そうか。もう少し休めという事だろう。」
濡れ布巾でエマの汗を拭いてやる。
やはり頬はまだ少し赤みを帯び、まぶたも重そうだ。
幼い頃から何度もエマの看病はしてきたが、このむせるような甘い匂いは今まで知らなかった。
汗の匂いにしてはかぐわしく、グレイはこの香りの正体が分からず少し戸惑っていた。
「ね、グレイも一緒に寝て」
体調を崩すと甘える癖は、昔から変わっていない。
「ここでか?」
「だって…。」
「…。仕方ないな、お前は。」
髪を撫でるとエマはベッドの反対側に体を寄せ、グレイが入る空間を作った。
布団をめくってベッドに入り込むと、エマが胸に飛び込んできた。
「手紙、読めたよ。」
「お、そうか。良かった」
「時間かかったけど…。」
「良いんだ。2~3年前は、ひとつも読めなかっただろう?立派な成長だ。」
それを聞いてエマの顔はほころぶ。
一方グレイは…エマと共に横になるのが久しぶりなのと安心感からか、下半身が反応しているのを知られないよう腰を引いていた。
その甲斐なく、すぐにエマが気付いて驚く。
「すごく熱くて硬い…。どうしたの?苦しいの?」
「…ああ。大丈夫だ。」
エマは傷でも労わるかのように、服の上からそっと撫でた。
ビクリと反応すると、エマもまた少し驚く。
「あまり触るな。」
「なんで?」
「なんでもだ。」
「むぅ…。」
