神の口笛
第6章 6
ビアンカは真っ赤な顔でエマに掴みかかり、髪や洋服をめちゃめちゃに引っ張った。
エマも負けじとマウントを取ろうとして、2人はゴロゴロと何度か地面を転がった。
「ちょっと、エマ!何してんのよ、やめなさいよぉ!ほら…っもう…!」
ステラが大急ぎで駆け寄って、2人を引き剥がそうとした。
意地の張り合いは続き、エマはステラに申し訳なく思いつつも手を離さなかった。
2人の荒ぶる呼吸が、空中に白く溶ける。
見兼ねた女兵士がグレイを呼んできた。
「おい!やめろ!」
グレイは2人の手首をつかみ、その力の強さに一瞬互いにひるんだ。
それでも手を離すことはない。
「やめろと言っている。」
グレイはエマを見つめた。
まるでビアンカもほかの女兵士もそこにいないかのように、強いまなざしでエマだけを見つめていた。
「…エマ。…離せるな?」
おそらくエマしか聞いた事の無いような優しいトーンでそう言い、初めは険しかったエマの表情が少し和らいだ。
ゆっくりと、ビアンカの服から手を離す。
ビアンカは相変わらずムキになっていたが、いとも簡単にグレイによって引き剥がされた。
2人は即刻、上層部に呼び出され、罰として24時間の拘束を受ける事となった。
…
「エマ…!」
独房に、ささやき声が響く。
「ステラ?」
「ほら、夕食を持ってきたよ。少しだけど…バレたらやばいから早く食べてよね!」
「ありがとう…」
「いいの。ビアンカの奴、これで少しは懲りるといいんだけどっ!…はい、パン」
両手を鎖につながれているので、ステラが食べ物を口へと運んでくれた。
全部を食べ終えると、エマは少しも悪くないのに!とぷんすか怒ってステラは去っていった。
孤独な夜、遠くから聞こえる獣の遠吠えをただ聞いていた。
翌日、暗くジメジメした独房にグレイがやってきた。
ガチャリ、と重い南京錠を開け、独房に入って来る。
「…大丈夫か。」
うなだれているエマのあごを持ち上げ、顔色を見るように言った。
「…うん。」