神の口笛
第7章 7
「手が痛いか?」
体のうしろで組まれた状態で鎖につながれている両腕は、感覚を失いかけている。
「ううん。痛くはない。」
「…そうか。」
怒られるかと思ったが、お咎めの言葉はなにもなかった。
「もうすぐ出れる?」
「あと5時間だな。出たら、腕を揉んでやる。湯浴みも出来る。あと少しの辛抱だ。」
「うん…。」
…
午後になり、やっと独房を出られた。
ステラの言うには、今回喧嘩をふっかけたビアンカは厳重注意としてきついお灸をすえられたらしい。
自発攻撃を禁じるクベナ教では、こういった事にも厳しいというわけだ。
途中参加で弓矢の訓練をこなすが、腕の感覚がなかなか戻らなかった。
今夜、グレイが良くしてくれるかな…。
想像した瞬間、深部がきゅんとせつなく縮むような感覚がしてエマは戸惑った。
湯浴みを済ませ、少しの夕食を取るとエマは走り出す。
すっかり雪が積もっている基地内に、小さな足跡がついていった。
「訓練してたら、だいぶ元に戻ってきた。」
腕を見せながら言うと、グレイは「そうか」と言いながら優しくさすった。
「お前が喧嘩なんてめずらしいな。」
「足をひっかけられた。この前の戦でも、ここをケガしたときに踏みつけられた。」
まだ包帯を巻いている太ももに目をやりながらエマは言った。
「…。」
「ビアンカは私が嫌いなんだ。私もビアンカが嫌い。」
「…そうか。嫌いな人間の1人や2人、いて当然だ。くだらない喧嘩を売ってくる奴は放っておけ。」
「うん…。」
いま思い出してもムカムカするが、こうしてグレイと触れ合っているだけでそれがとても小さな事に思えてきた。
「まぁ…売られた喧嘩は買う、というのもお前らしいけどな」
グレイが少し笑った。
「言いたいことは言わないといられない。」
「ふふ。よく知ってるよ。」
言いながらグレイはエマをベッドに招き寄せた。
「そうだ、グレイ。遅くなったけど肩を揉んであげる。」
「ん?いや…あれは言葉遊びだ。」
「…?」
首をかしげるエマに、グレイは苦笑しつつ横になった。