神の口笛
第7章 7
「なにしてる」
エマが声をかけると4人はハッと見た。
「なんだよ?仲間に入りてぇか?はっは」
こんな姿を見られてビアンカは嫌悪を抱いたのか、鋭い目つきだ。
「…グレイを呼んだ。もうすぐここに来る。」
エマは初めて嘘をついた。
つこうと思ったのではなく、不意に出た言葉だった。
「な…っマジかよ。おい、行くぞ」
男たちはそそくさと去っていく。
ビアンカは乱れた服を直し、ぱっぱと汚いものでも払う仕草をした。
「…助けなんて求めてない。余計なことしないで。」
「別に。8時までは淫らな事をしてはいけないから、それだけ。」
「ふんっ…。………じゃあね。」
小さな声だったが、確かに聞こえた。ありがと、と。
…
すっかり暗くなり、お焚き上げの準備が進む。
「エマ。」
「グレイ!」
「飲みすぎてないか?」
「うん、平気。今度のもすごく美味しい。」
「そうだな。」
「願い事は書いた?」
「ああ。朝にな。エマは書いたか?」
「まだ…。」
グレイに促され、万年筆を手に取る。
エマは少し考えた後、「グレイが戦から無事に帰るように…と書きたい」と言った。
「年に一度の願い事を俺に使うのか?エマらしくないな」
言いつつも、グレイの顔は穏やかだった。
文字を教わりながら書き、向こうではパチパチと木々が燃え盛る音が聞こえた。
「できた。」
「言っておくが、俺は日々訓練に余念がないからお前が願わなくても帰って来るぞ。本当に良いのか?それで」
「いいのっ。」
「…そうか。」
「グレイはなんて書いたの?」
「見たいか?」
グレイは白装束の中から木の板を取り出して見せた。
「えま…が…こ?…う…ふ…――」
板には、”エマが幸福であるように”と書かれていた。
いよいよお焚き上げの儀式が始まり、神職者は言葉を唱え、兵士たちは願い事を書いた木の板を炎の中に投げ込んでいく。
「行こう。」
グレイに言われて炎のそばまで行くと、ステラとルイが迎えた。
4人で共に板を投げ入れ、祈りの言葉をつぶやく。
ごうごうと空高くのぼった火柱が、皆の顔を熱く照らしていた。