神の口笛
第7章 7
続いて、聖水の儀では神職者が柄杓で水を撒く。
濡れれば濡れるほど1年間安泰に過ごせると言われているため、皆はこぞって水しぶきを受け止める。
――バシャッ…!
エマに大きく水がかかり、白装束がぺたりと張り付いた。
「うわぁ、エマ派手に濡れたね!いいなぁ私ももっと前行ってこよっと!」
ステラが兵士たちの渦に割って入っていく。
「今年はこんなにかかった!」
自慢げにグレイに見せに行くと、グレイと話していた男兵士たちがエマの胸元に目をやり、鼻の穴を膨らめた。
「??」
グレイはエマの肩を引き、「それじゃあ」と男たちに挨拶してその場を去る。
「ねえ、聞いてる?」
「ああ。今年は良い一年になるだろうな。…ほら、少しここに座ろう。」
お焚き上げが終わった火のそばで、服が乾くのを待った。
最後は火渡りの儀だ。
お焚き上げの炎を平らにならし、まだ火種が消えぬうちにそこを裸足で渡る。
距離は10メートルほどだろうか。
「幼い頃は、熱そうだって怖がっていたな。」
グレイが朗らかに言う。
怖がるエマを抱いて勇ましく火渡りをしたグレイの姿が蘇った。
「今は大丈夫だもん、全然。」
火渡りは見た目こそ熱そうだが、不思議なことに実際にはほとんど熱を感じない。
先にグレイが渡り、そしてエマが行く。
残り火の向こうで、グレイがエマを待っていた…―――
…
火の大祭りが終わり、またいつも通りの日常が始まった。
3週間が経ったこの日の夜、ステラは「ベンと約束できたの!」と嬉しそうに出かけて行った。
部屋にはルイが遊びに来ていて、一緒に本を眺めていた。
「これはなんて読むか分かる?」
「ぱ…ぱー…し…??分かんない」
「パーシモンだよ。」
「あっ!」
「食べた事あるだろ?」
「うん。」
「この男の子は、パーシモンの果実をどうしたって書いてある?」
「えっと…。」
エマは長い事、うんうんと唸りながら文字列に眉をひそめていた。
ゆるやかにカールしたまつげをルイが見つめ、ゆったりとした時間が流れる。