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神の口笛

第8章 8




「レイモンドさんって、スピリル国王からの信頼も厚いらしいよ?エマ、気に入られれば玉の輿だよ!」

ステラが小声で言う。


玉の輿の意味は知っているが、エマには金や名誉がほしいという欲がこれっぽちも無かった。

しかしレイモンドがなんとなく気になる存在だというのは事実だった。



皆で宴をして過ごす夜。

グレイと2人きりじゃないのは初めてだ。



テーブルに座ったまま時折居眠りをしたが、それでも空が白んでくるまで大勢で共に過ごした。


そばにはステラやルイ、グレイもいた。レイモンドも…―――







男兵士たちの厭らしい行為から助けることになった例の一件以降、ビアンカのいじめは無くなった。

しかしグレイへのアプローチは熱心に続けられていた。


今日も乗馬訓練でビアンカは一番の成績を残し、グレイに褒められているところだ。



「「わぁ!素敵…っ!」」

女たちがひそひそと黄色い歓声を上げる。

見ると、手本を見せるためレイモンドが馬に乗って華麗に障害物をよけていた。


総隊長とはとても忙しいのか、大祭りのあともレイモンドを見かける機会は少ない。今日はたまたま時間があったのだろう。



「エマちゃんを正妻として迎えたいと言っているらしいじゃないか」

幹部の1人がグレイに言った。

すでに風の噂で耳にしていたグレイは無言でレイモンドの乗馬に目をやる。


「一緒になれば将来安泰だよな。兄としてもあれ以上の男はなかなかいないだろう?」

グレイはそれを聞き葛藤した。


胸に渦巻く黒々したものを振り払うように、「整列しろ!」と号令をかける。


エマを見ると、号令が少しも聞こえない様子でレイモンドに見入っていた。


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