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神の口笛

第8章 8





数日後、葉の季節も後半に差し掛かったある夜。

湯浴み上がりに外へ出て星を眺めていたグレイのそばへ、ひとつの影が近づく。


「エマのお兄さんだね?」

レイモンドはまっすぐにグレイを見て言った。


「…。」

キミの評判は耳にしているよ、と言いながら、グレイのそばに腰を下ろす。



「もう聞いていると思うけど。僕はエマを正妻に迎えたいと思っている。」


「……。そうか。」


「僕は彼女をこの上なく大切にするよ。幸せにする。」


「…。」


「その権力もある。今すぐ軍をやめさせ安全に暮らさせることだってできる。」


「ああ…。そうだな。」


この男がエマを妻にしたのなら、彼女がそのような暮らしを手に入れられることくらいグレイにも容易に分かる。



「ほかになにか問題が?」

浮かない表情のままでいるグレイに、レイモンドは静かに問うた。


「…いや。」


「ふふ。まぁ、もっとも…エマの気持ち次第だけどね。僕は無理強いはしたくないタチだから。」


おそらくこの男は、兵士の中でも類まれに見る誠実な男なのだろうとグレイは悟る。






「エマを気に入った理由は?」

少しの沈黙の後でグレイが口を開いた。


「彼女は一見なにを考えているか分からないような寡黙さがあるが、目を見て話せばわかる。実に聡明だ。それに、美しい。内も外もな。」

「…。」


「他の女たちのように下品なことを言わないし、おそらく男との肉体関係もないだろう。」

「それが目的か?」


「はは、違うよ。彼女のそんな繊細な部分を守りたいと思ったんだ。そこらの輩に手を出されたくないなぁ…と、ね。」


誰からも信頼を得られそうな優しい視線でレイモンドは言う。

その思いはグレイも同じだった。


この短期間でエマの内面を見抜き、当然のごとく惹かれたのだろうと察しがつく。



小さな星がひとつ、頼りなげに瞬いた。


自分だけが存在を把握し、誰にも知られずに可愛がってきたその星が、ほうき星となってどこかへ流れて行ってしまうような…そんな気がした。


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