神の口笛
第8章 8
「グレイさん…そんなにエマがいいのですか?」
「どうしてエマの名が出てくる。」
「だって…女にまるで興味がないみたい。この部屋で眠れるのはエマだけなんでしょう?」
「そうだな。」
「そして2人は血が繋がっていない。そういう関係なんですか?」
「お前に話す義理はない。」
「…っ。」
「お前こそ、なぜそんなに俺にこだわる?男はいくらでもいるだろう。」
「グレイさんじゃなきゃ嫌なんです。一度だけで良いのに、どうして駄目なんですか…っ!」
ビアンカには、一度関係を持てば引き留められる自信があった。
無言をつらぬくグレイは溜め息を吐き、疲れたように目を閉じた。
次の瞬間、ビアンカは背伸びをしてグレイの唇に口づけた。
しかし彼は無表情のまま、心ここにあらずといった状態だ。
「グレイさん…」
色っぽい声を出し、乳に手を誘う。
「さわって…ねぇ、おねがい……んぅ…」
喘ぐ真似をしながら彼の下半身に目をやるが、まったく反応はない。
「―――なんだ、そういう事だったんですか…?」
ビアンカが離れ、やっとグレイは目をあけた。
人の気配を感じ、見るとエマが走っていく後ろ姿があった。
「見られちゃったかな」
ビアンカがクスっと笑う。
「もう話すことは無いだろう。部屋へ戻れ。」
「グレイさん、私だれにも言わないから安心してくださいね。」
なにか勘違いしている彼女に、それでも弁解などしないまま見送った。
すぐに北棟を目指し、棟を出る。
エマは大きな丸太に座り、空を見上げていた。
「ビアンカとキスしてた?」
彼女はグレイを見ることなくそう言った。
「…。」
グレイは無言でエマのとなりに腰掛け、同じように空を見た。
「なんでしたの?」
「…お前には関係のない事だ。」
「好きなの?ビアンカのこと。愛してるの?」
「そうじゃない。」
2人の目が合う。
しばしの沈黙の間、棟の方からはうっすらと男女の喧騒が聞こえていた。