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雨の降る夜は傍にいて…

第7章 五月雨(さみだれ)

 6 終焉の音

 ブチッ…

 わたしのカラダに鳴り響いたその音は、わたしを正に、天国から地獄へと堕とした音であったのだ。

「ああっ」
 わたしは相手チームのセンターの下敷きとなり、悲鳴を上げてもんどりを打つ。
 
 ピィーッ…

「レフェリータイムッ」
 わたしは主審の笛と、その声を聞いた後の記憶がなかった。
 その後の記憶は、運ばれたベッドの上からであったのだ。
 そこには涙に暮れる母親の姿と、呆然とした表情の父親の姿、そして大学の監督の橋本先生の姿があった。
 そして傍らには主治医と看護師がいた。

「左足前十字靱帯断裂と半月板損傷、そして左膝関節損傷で全治は三ヶ月ですかねぇ…」
 そう両親と監督先生に伝えていた。

「先生、バスケットは?」
 母親が医師に訊く。

「うーん、難しいでしょうねぇ、この膝関節損傷が厄介でね…」

「そ、そんな…」
 母親が絶句する。

「リハビリをして、なんとか普通に軽く走れる様にはなるかとは思いますが…
 激しいバスケットは難しいですね」
 わたしはそんな医師の言葉を意外に冷静に聞いていた。

 なぜなら、あの相手センターと交錯し、倒れ込んでいく瞬間に回りの全ての時間が止まり、まるで走馬灯の様に脳裏に小学三年生から始めたバスケットのわたしの歴史みたいな映像が映画の如くに色々流れたのであった、そしてそれを脳裏で感じ、読み取った瞬間に…
 ああ、わたしのバスケット人生が終わるんだ…
 なぜか、そう感じ、思ったのだ。

 この膝の痛みと、脳内に鳴り響いた、ブチッ、という音がわたしのバスケット人生の終わりを、終焉を告げる音であり、天国から地獄へと真っ逆さまに尽き落とす音でもあったのである…

 それからの手術を経ての約一カ月の入院生活は、呆然自失の時間といえた。
 そしてまだ、わたしからバスケットという存在が亡くなる事の重大さは感じてはいなかったのである。

 いや、まだ現実を受け入れられないでいただけだったといえたのだ…




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