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雨の降る夜は傍にいて…

第7章 五月雨(さみだれ)

 8 神宮の大スター

 季節は初夏に差し掛かっていた。
 怪我をしたのが5月下旬、7月上旬、そんな候、『山中 遼』と出会ったのだ。
 
 わたしが通っているリハビリ施設はわたしの大学系列のリハビリ施設であるから、勿論他にも我が大学運動部の怪我人が多く通っていたし、スポーツリハビリとしても有名な施設であった。
 そんな環境にも係わらず自暴自棄に陥っているわたしはその施設内での厄介者な、面倒な患者の一人であった、そして当然、担当の優秀なスポーツリハビリトレーナーの先生も手を焼いていた存在であったのだ。
 
 そんなリハビリ治療の最中に、ある患者が目に止まった…

 全身から汗を噴き出し、苦痛の表情で唸り声を上げながら必死にリハビリをしている患者がいたのである。
 そしてその様子を自分のリハビリを流しながら眺めていた。

「彼のリハビリ凄いでしょう」
 と、担当の先生が話してきたのである。
 
「ええ、凄いわ…」
 後に分かったのであるが、担当の先生は少しでもわたしの刺激になると思って見せたのだそうだ…だが、当時のわたしには知る由もなかった。

「彼はほら、あの有名な野球の…」
 と、先生は言ってきたのであるが、わたしはバスケットしか興味がなかったので全く知らなかったのである。

「えっ、ごめん、わたしバスケット馬鹿なんで知らないわ」

「えっ、そうなのっ」
 と、驚きの声を上げ…
「ゆりさんと同じ大学の神宮の大スターの…『山中遼』さんよ」
 と、言ってきたのだ。

 神宮の大スター…

 確かに東京6大学野球は超有名な花形スポーツであり、その球場である神宮球場の名の元の大スターとなると凄いのであろう…
 わたしはその程度しか分からなかった。

「彼はプロ野球界からも注目を受けている逸材なのよ」
 
「へえ…」
 本当にその時は、その程度の関心しかなかったのだ。

「ま、最もゆりさんも、野球でいったら彼位の大スターだったんですもんねぇ」
 今となっては嫌味にしか聞こえなかった。

「そんな大スターは?」
 どんな怪我のリハビリをしているのか?…
 
「ゆりさんと全く同じ症状よ…」

「えっ、同じなんだ…」

 じゃあ、再起不能じゃないか…
 その時、そう思った。

 そして…

 やるだけ…

 頑張ったって…

 無駄じゃん…

 そうも思ったのである。





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