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雨の降る夜は傍にいて…

第7章 五月雨(さみだれ)

 9 彼のリハビリ姿

「ゆりさんと全く同じ症状なのよ…」

「えっ、同じなんだ…」

 じゃあ、再起不能じゃないか…
 その時のわたしはそう思った。

 そして…

 そんなやるだけ、頑張ったって無駄じゃん…
 そうも思ったのである。
 当時のわたしはそのくらいにひねくれていたのであった。

 だが、彼は全く復帰の希望は捨てていなく、鬼気迫る表情、迫力で必死なリハビリをしていたのである。

「ゆりさんには残酷かもしれないけどさぁ…」
 するとリハビリトレーナーの先生が、申し訳なさそうに話してきたのだ。

「野球はさぁ、バスケットとは全然動きが違うから、何とか復帰の可能性はあるのよね…
 ただし、かなり本人が頑張らないとダメだけどさ…」
 と、そう言ってきたのである。
 
 そうなのだ、常に走り、ストップアンドゴー等の激しい動き、そしてかなりの膝への負担を掛けるバスケットの動きとは違い、野球はポジションによってはそこまでの激しい動きは要求されないのだ…

「だけどさ、かなりリハビリを頑張らないと無理だけどさぁ」
 そう、しみじみとトレーナーの先生は言ってきた。
 そして、それは少しでもわたしにもリハビリを頑張って欲しいという、彼女なりの想いからの彼のリハビリ姿を見せる、という事であったのだ。

 だけど、実は、その当時のわたしには、そんな事は分かってはいたのである…
 
 ただ…

 バスケットが二度と出来ないという現実をまだ認めたくはなかった、いや、認められなかったのである…

 バスケットが二度と出来ない…

 それは死刑宣告と同じなのである…

 そして、そう簡単には開き直る事も出来ないのであった…

 ただ…

 少しだけ…

 少しだけ、彼の姿に心の氷河が溶け始めてきていたのである。
 だけどまだ、その時は気づいてはいなかったし、わたしはその頃は絶望のどん底で溺れかけていたのであった。

 だが、彼のあの必死の姿は心の奥深くに焼き付いてはいたのだ…

 とりあえずその後、日常生活に支障がない程度に回復をすると、わたしはリハビリから逃げたのである。
 全てが嫌になっていたのだ。

 歩けるならば、もういいじゃん…

 そしてヤケになっていた。






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