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　7　まるで異世界

　このバーは約60階の高層シティホテルの最上階に位置していた。
　そしてわたしはこの最上階の高層から眺める大都会の夜景が好きである、いや違う、この嵐の大雨に洗い流されていくような大都会の夜景が好きなのである。
　特に今夜のような、大型台風の接近に伴う横殴りの強風に乗り大雨がこのバーの高層の窓に叩きつけ、大都会の汚れを洗い流していくかのようなこんな嵐の夜景が大好きなのであった。

　しかし、どんなに風が強く吹こうとも、どんなに横殴りの大雨がこの最上階の窓を叩きつけようとも、完全に密閉されたこの高層ホテルの室内では嵐の風の音も、大雨の音も全く聞こえてはこないのだ、静かに流れるジャズの調べしか聞こえてはこないのである。
　それがわたしにはまるで異世界にいるような錯覚を起こし、ゾクゾクと心を昂ぶらせてくるのであった。

　まるでこのホテルの中、このバーの中がわたしには異世界に存在しているように感じられていた…

「ああ、凄い雨…」
　わたしは大雨が横殴りに叩きつけてくるその窓を見て呟いた。

「そうですね…凄い大雨だ…」
　その男がそう応えてきたのだ。
　そしてわたしはその男を見る。

「何か、私に奢らせて下さい…」
　すると男はすっかり空になったわたしのカクテルグラスを見て、そう云ってきた。

　わたしは一瞬の一瞥でその男を品定めする。

　うん、悪くはないか…

　わたしの男の基準は

　聡明な知的さ…

　爽やかさ…

　そして清潔感…

　基準点ではあった。

　よし、テストしてみるか…

　後はそれ次第である。