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願望アプリ

第1章 願望アプリ

 そして迎えたバレンタインデー。
 今日が日曜日で良かったと心底思った。美晴ちゃんが中島にチョコを渡す姿なんて、死んでも見たくない。


 情けないけど、僕は一晩中泣いてしまった。酷い顔が更に酷くなっている。
 どうせ出かける予定もないし、布団の上でダラダラと過ごそうと思った。


 テレビをつけるとバレンタインイベントの様子が映っていて、カップルがインタビューを受けていた。


「はあ~イチャイチャするなら家でやれよ」


 そう思ってテレビを消そうとすると、ある姿が目に入った。
 カップルの後ろにあるベンチで、一人泣いている美晴ちゃんの姿が見えたのだ。


「美晴ちゃん!?」


 きっと中島が美晴ちゃんを傷つけたに違いないと思った僕は、急いで着替えて家を飛び出した。


 ちょうどきた電車に乗ってドア付近に立つ。窓から風景を見つつ息を整えていると、袖をクイッと引っ張られた。


「祐介くんっ」


 僕の袖を引っ張ったのは、美晴ちゃんの友達の京子ちゃんだった。
 美晴ちゃんと髪型が似てるから、一瞬美晴ちゃんかと思った。


「赤いコート着てたからすぐわかったよ」

「え?」


 僕は窓に写る自分の姿を見る。
 どういうわけか、普段着ない赤いコートを知らずに着てきてしまったようだ。


「ちゃんと四両目に乗ってくれたんだね」


 まるで四両目に乗る約束でもしたかのように話す、京子ちゃん。


「祐介くんに会えて良かった」


 そう言って満面の笑顔を向けられて、僕は戸惑った。


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