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片恋は右隣

第2章 ワンナイトじゃないんですか


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自宅から約三分。
小さなお店ののれんをくぐり、気安い店主さんご夫婦といつもの挨拶を交わしてカウンターの席に着く。
飲み屋というよりも、小料理屋という雰囲気に近いお店だ。
店内は明るい民家調の雰囲気で、いつもこ綺麗にしていて客層も悪くなく、自分のような女性一人でも入りやすく気に入っている。

平日の今日はテーブル席に二組ほどのお客さんがいる程度。
定食は若干重いので、小鉢を数品頼み、ビールと軽いサワーを二杯ぐらい飲んで帰る予定だった。
カウンター越しに初老の店主さんが話しかけてきた。

「つい最近親御さんが昼に来たよ」

「……ええ? またわたしの愚痴言ってませんでした?」

「いつも心配して様子をきいてくるよ。 親心じゃないのかねえ」

そんな彼の思惑のなさそうな言葉に苦々しい笑いを返す。

別にうちの両親はわたしのことを心配しているわけではない。
外聞を気にするタチだから、単にそういうポーズを取っているだけだ。
現に当の本人には盆正月にさえ連絡がない。

実家はマンションからもそう遠くはないけど、倉沢さんなどと違い、会社に徒歩で通える距離ではない。

……そういえば、倉沢さんはやっぱり実家に住んでるのだろうか。

そんなことを考えていたらお店の引き戸が開いた。

カウンターから見える位置にある出入口から、ちょうど頭の中に浮かべていた人物があらわれた。

わたしの方は髪を括り眼鏡を掛けた完璧おウチモードだった。
そんな自分の姿を見付けた倉沢さんがちょっと驚いた様子で、でも親しげに話しかけてきた。

「こんばんは。 三上さんここの近く? おれの家すぐそこ」

ワイシャツを脱いだラフな格好で、会社とは違う口調や表情だった。
そんな彼につられる。

「うん。 近いし、いいお店だよね」

「家は味気ないし、おれもここでよく晩メシ食うから。 一緒にいい?」

そんな彼を見上げながら思った。

倉沢さんは転職したばかりで、社内でよく話す相手といえば素っ気ないわたしぐらい。
今まで自分のことしか見えてなかったことに気付いた。

先ほどの電話で余裕もあったせいだろう。

「是非」

これまでのお詫び分、わたしは口の端をあげてそれに応えた。



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