片恋は右隣
第2章 ワンナイトじゃないんですか
────でも、いつでも間違いが100パーセント起こりっこないなんてあり得ない。
分かっていたのに、倫理観のしっかりした自分はどこへ行ったんだろう?
当たり障りのない会話をして楽しく過ごしたはずだ。
すこし飲み過ぎたため、倉沢さんがマンションの近くまで送ってくれた。
「また明日。 気をつけて」そんな風に口をきいてくれるほど帰りは親しくなっていた。
それに甘えたのか。 よせばいいのにわたしは咄嗟に離れかけた彼のTシャツの裾をつかんだ。
まるで不自然に引き留めたみたいな状況で、「うちで飲み直さない?」なんて。
そのときの自分の頭にあったのは十年分の想い────といっても、決して綺麗なものじゃない。
そのツケを払ってくれとでもいうような、理不尽な絡み酒に近い。
「えっと……それはそういうこと?」
それなりの経験があれば分かることだろう。 彼は戸惑ってわたしを見た。
そんな彼の動揺に対し、妙な優越感みたいなものを覚え、他のことが頭から抜け落ちていた。