片恋は右隣
第2章 ワンナイトじゃないんですか
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自分の体が汗ばんでいるのは背中に感じる体温のせいだけじゃなかった。
「……っ待って」
それに対しての返答はない。
ふうっ、は。 はぁ。
声を出さなくっても勝手に息があがる。
大体倉沢さんも、断ってくれればよかったのに。
簡単に誘いに乗るってどういうこと?
そんな責任転嫁をするくせに。
抱きすくめられて首すじに生暖かい感触を受けながら、それに対して嫌悪感がない自分が不思議だった。
とちらにしろ、後悔すでに時遅し、というやつだ。
わたしの胸に沈む彼の手つきはどこか余裕がなさげ。
腿やお尻を忙しなく撫でてくるのも。
……それに引き摺られる。
体を支えている両手の白い壁はいつもの自宅なのに、まるで違う場所のような気がした。
色気のない前開きのシャツに滑り込む大きな手。
突然わたしの胸先に触れた指の感触に背を逸らした。
「感じやすいんだ? 三上さん」
動作のわりには余裕を感じさせる倉沢さんの声音だった。
高校のときとは違う大人の男性の声で、大人の会話をする。
「違っ……う、痛い、から」
耳に当たる息でも小さく声を漏らす。
そんな自分に対し、なんとか誤魔化そうとして取り繕った言葉だった。
けれども体は真逆に反応する。
本当は痛くなんかない。
「ごめん。 興奮して」
気を使ってくれたのかはどうかは分からないけど、倉沢さんの方が断りをいれた。
ほんの少し触れられただけで尖った胸先。
それがシャツの生地がこすれるだけでわたしを喘がせる。