片恋は右隣
第3章 ちょっと先走りすぎじゃないですか
「当たり前だろ?」
ええええ……
この人、話には聞いてたけど(本人談)ウザい。
話しながら歩いていたせいで大分会社から離れたようなので、ホッとして歩を落とした。
「認識が違いますよ。 花邑くんとは先に約束してたし、四つも歳下の社員で」
「普通夜に二人っきりで飲みに行く?」
「だからそれは……そもそも倉沢さんとは昨晩一度寝ただけで」
「んじゃ、三上さんは誰とでもあんなんやるわけ?」
わたしより恋愛経験多いんだろうに。
しかもいい歳こいて。
そんな彼の言い草に、腹が立つより心から呆れた。
「やりませんよ。 馬鹿なんですか?」
「へ?」
プツリと何かが切れたわたしに倉沢さんが間抜けな声を出す。
「男性としたのなんて六年振りです。 それこそ別れたらハイ次なんて、倉沢さんとは違うんですから」
「……あのなあ。 おれだって」
「頭がまだついてこないんですよ。 ちょっとはこっちのペースにも合わせてください。 大体昨晩、わたしデートの返事もしてなかったでしょう?」
「……言われて……みれば? じゃあ、おれは駄目?」
そんなシュンとされましても。
これが犬だったら耳がペタンて寝てそうな。
困った。
どうしようかと思い、わたしは再びキョロキョロ周りを見た。
人通りは少なく、繁華街を抜けた道だ。
「少しだけ屈んでください」
倉沢さんが不思議そうに膝を折る。
そんな彼にほんの一瞬だけ、一秒だけ、軽くキスをした……頬っぺたにだけど。
「…………」
彼が目をしばたたかせてわたしを見ている。