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片恋は右隣

第3章 ちょっと先走りすぎじゃないですか



……こんな状況で落ち着いて寛げるわけもなく。

花邑くんと店員さんの話がつき、しばしの会話のあと、下見という名の飲み会は早々にお開きになった。

わたしがお店を出た少しあとから、倉沢さんも席を立つのがみえた。

花邑くんと別れて彼の姿が見えなくなった頃。
「お疲れ様」と倉沢さんが声をかけながら、横断歩道を渡ってこちらに歩み寄ってきた。

「早かったね。 楽しかった?」

「え、ええ、まあ。 ストーカーみたいな人がいましたけど」

「えっ? 店で!? おれの知ってる奴?」

お前だよ。

そうツッコミたくなるも「大丈夫だよ。 おれがずっと一緒にいたら相手も諦めるだろうし」と彼が心配してくれるのでやめてあげた。

「でも三上さんの顔、遠くてあんまり見えなかったな。 双眼鏡あればよかった。 観光地でよく見るやつ、ドンキとかに売ってたよね」

真面目にそう言ってくる倉沢さんに対し、不審者をみるような目つきになってしまった。

そんな話をしながら、お互いの家の方向の、北口に向けて歩く。
会社帰りにしては遅い時間でも、駅に向かうにつれ人の数が増えていった。

ふと倉沢さんがわたしの方を向いて尋ねてくる。

「二人の時は名前で呼んでいい?」

「ダメです」

自分の名前。
美優(みゆ)なんて可愛らしいものが似合うキャラじゃない。
いままで生きてきて32年。
男女問わずそう呼ばれるのを断ってきた。


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