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片恋は右隣

第3章 ちょっと先走りすぎじゃないですか



「なんで? 可愛い名前なのに。 何回かデートして付き合ったら」

だから何でそういうことをサラッと言うかな?
真に受けないよう平静を装って話を変える。

「駄目。 そういえば倉沢さんって実家住みなんですよね」

「頑なだなあ。 うん、そう。 とりあえずはってとこ。 でもさ、一旦家出ると窮屈に感じんね」

「ですね、わたしもおなじ。 田舎っていっても、ここも政令指定都市ですからね。 お家賃も東京と比べたら全然安いし」

実家住みが平気な人もいるだろう。
でも、一人暮らしの解放感というものは、一度経験すると手放しづらいものがある。

「そもそも三十超えて実家ってのも……都会ならいんだろうけど」

「都会ならメリットありますよね。 そうでもなければ今さら誰かと住むなんて考えられませんよ」

時々彼の言動に驚かされるとはいえ。
地元と歳が同じだからか、話すたびにしっくりくる。

「晩食ったよね?」

「うん、店では少しつまむ程度だったから。 倉沢さんは」

「さすがに二食連続ファーストフードはなあ。 帰り中華テイクアウトしてっていい?」

「あっ、陽華楼ですか? じゃあ、わたしも少しだけ。 家で飲みます?」

「いいね、あそこ美味いよな。 飯と酒は奢るよ、宿代に」

マンションに着く前に倉沢さんが「ちょっと着替えとか家から取ってくる」と一旦別れた。
家が近いとこんなときは便利だと思う。

駅から十分も離れた住宅街には所々に畑などが点在する。
庭もなく家がひしめく都会との違いを感じる。

今ごろの季節は虫の音に耳を傾けながら家路についた。


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