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片恋は右隣

第3章 ちょっと先走りすぎじゃないですか


わたしが借りているマンションは2DKと手頃な広さ。
帰ってからすぐに、軽く部屋を見渡し片付けをした。

そういえば、ここに移り住んでから改まって男性を招いたのは初めてだ。
ちょっとくすぐったい気分になった。

軽くシャワーを浴びてから、お惣菜やらを並べてるうちに彼が戻ってきた。

「あれっ、三上さんシャワー浴びた?」

開口一番、まだ髪を乾かしてないわたしに倉沢さんが訊いてきた。

「……はい?」

「ひでえな。 普通一緒に入るでしょ」

へ、普通? そうなのかな。

「そもそもわたし、誰かとお風呂入るの嫌いなんです。 女同士でも」

「……三上さんってイヤとかダメが多いよね」

「倉沢さんがデリカシーに欠けるんですよ。 タオルとか出しときましたからどうぞ」

そっかなあ、などと言いながら彼が残念そうにバスルームへと向かう。

はて、デリカシー。
そんな倉沢さんの後ろ姿を見送りつつ、自分で言っておきながら首を捻る。

たしか中学の頃だっけ。

交通事故にあったせいで、半年学校に来れなかった生徒がいた。
彼と同じくバレー部で、まだ思うように動けないその子の悪口を体育館で耳にした。
悪口を言っていたのは彼と同じ部員の子だった。

『おまえらな、本人のいないとこでそんなの言うの止めろよ』

何気なしに通りがかり、その子たちに注意していた倉沢さんに目を留めた。

『部長。 でも足手まといなのは確かだし、正直、気使って練習もやりづらいし。 本人になら言っていいんだ?』

『ハア? 良いわけないだろ。そんなに有り余ってんなら基礎体力つけとけ。 腕立て五十回な』

『ええ、ひっで!』

そのあとに『倉沢、何勝手に練習メニュー変えてんだ!』とかって顧問の先生に怒られて、一緒にヒィヒィ腕立てしてた倉沢さんを思い出した。

そんな彼を凄いなあって思った。
わたしにはあんなことは言えないから。

確かに異性としてほんのり好きだった。
でも、文武両道で責任感が強い彼に対して、あの時、私の中で人間性を含めた憧れに変わった。

『三上さんってイヤとかダメとか多いよね』

「…………」

デリカシーがないのはむしろ、わたしの方?


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