片恋は右隣
第3章 ちょっと先走りすぎじゃないですか
そんなわたしに彼がふっと笑った。
「なんでそこでまた謝んの?」
倉沢さんは恋愛は置いといて、人間的なキャパが広い。
じゃなきゃ中高で部長なんて出来ないんだろうし、たぶん今後、別部署に移っても、あっという間に出世するんだろう。
わたくしめみたいなものが彼に相応しいわけないですよね。 なんて、ハリポタドビーみたいな殊勝な気持ちになる。
「おれ的にはむしろ、三上さんみたいに、やなこと嫌だって言ってくれるの楽だよ。 大人んなって叱ってくれる人なんてあんまりいないし。 そういうとこ好きだよ」
「そうでありますか……」
「なんで敬語が段々おかしなことになってんの? そもそも、なんで敬語なの」
「会社モードの癖なので」ボソボソ言うわたしを中腰になった倉沢さんが引き寄せ、ぎゅうっと抱き締める。
背中と腰の近くに回った腕が痛いぐらいで、息を詰めた。
「く、倉沢様……?」
「いやだから。 いちいちこまめに距離変えないで。 面白いけど」
ふふ、と笑いながら唇で耳の端をかぷ、と挟まれる。
ひくっ。
と肩と首の間がすくんだ。
「近くにいてよ」
床にお尻をついていた彼がわたしを抱き寄せる。
膝をつき彼の腿の間に入り込む格好になった。
自分が着ていたTシャツの裾に滑り込んだ両腕が、背中と腰に回る。
近くにいる倉沢さんがあったかい。
なぜだか胸がじんとした。