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片恋は右隣

第4章 幸せになったらダメなんですか


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「結婚してないじゃんね。 倉沢さん」

────え?

若い女の子の声がきこえた。
距離的に、いまわたしがいる休憩室の前の廊下かな?
誰の声だろう、と考えているともうひとり別の女性が受け答えをする。

「あの人、ウソついてまで必死過ぎ。 三十超えてあんなんなる前に、私も気を付けないと」

「…………」

聞き覚えのあるこの声は、たしか彼の異動の初日、チャット送ってきた人だ。

「倉沢さんが広報いったら急にオシャレアピールし出してさ、ますますイタイよねー」

それからも延々と悪口が続く。
誰のこととは言ってないとはいえ……語尾に『w』みたいなのが目にみえる。
悪意がミエミエだ。

わたしがここにいるのを気付いて言ってるんだろうな、と思う。

胃というか、胸や喉も痛い。
わたしってそんなにイタい女なんだろうか?

いたたまれないし逃げたい。
なるべく彼女たちの声を耳に入れないように顔を伏せようとした。


「──ん、倉沢さん? 最初薬指に指輪してたよ。おれ見たもん。 彼女とかじゃないの? いまは知んないけど」

「は、花邑くん居たの?」

「てか、陰口ならお決まりの女子トイレとかにしたら? 性格疑われるよ」

「な、なによ。 私らは別に……」

「……陰口なんて、ねえ? 行こいこっ」

ちょうど通りがかった様子の花邑くんに声をかけられ、逃げるように女の子たちが去っていく。

わたし以外にひと気のない休憩室に、彼がブツブツ言いながら入ってきた。

「陰険だよねえ……廊下の向こうからも丸聞こえ。 三上さんも、なんで言い返さないんですか」


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