片恋は右隣
第4章 幸せになったらダメなんですか
「待ってよ。 さっきからなに言ってるのか、ちょっと分かん」
「うち、社内恋愛禁止だよね。 知ってると思うけど」
少なくとも、いまの彼は好意的な態度とは言い難い。
それよりもむしろ。
「で今週の歓迎会の帰りさ。おれに付き合ってくれるよね?」
「それって……」
テーブル越しに伸ばしてきた両手がわたしの肩、それから顎をつかむ。
向かい側の彼の方に寄せられるように引っ張られた。
首と肩の間に埋められる花邑くんの顔。
自分の肌に刺されるような感覚が走った。
「っ、痛!」
すぐにわたしの顎をつかんでた手が離れる。
顔をあげ、至近距離でわたしを見てくる彼に後ずさった。
表情はふざけてるんだけど、さっきから彼の目が笑ってない。
「ハハッ、約束のシルシですよ。 んじゃあね」
「…………」
未だにチクチクと痛む肌に手の先をあて、わたしは愕然として部屋を出ていく花邑くんの後ろ姿を見送った。