片恋は右隣
第4章 幸せになったらダメなんですか
それからわたしは大急ぎでデスクに戻り、お手洗いへと走った。
鏡をみると、自分の鎖骨の手前にキスマーク······。
結構くっきり付いちゃってる。
ファンデ重ねてもみえちゃうぐらい。
ワイシャツでも隠せるかどうか、微妙な位置に。
『うち、社内恋愛禁止だよね』
あれは脅し?
さらに、キスマークは倉沢さんへの口止め……とか?
考えると混乱で心臓がドクドク鳴った。
「…………どうしよう」
たしかにこんなの、倉沢さんには見せらんない。
花邑くんにも会社にも、まだまともに付き合ってない、なんて言い訳にならないし。
というかまさか、花邑くんにそんな気持ちを抱かれてたとは思わなかった。
普通にいい子だと思ってた。
そう思うと、今日何度目か目の当たりにした、他人の毒気というものに身震いがした。
スマホを手に取りあの後、彼が送ってきたURLをふたたび開く。
そこには南口のビジネスホテルの地図情報が記載してあった。
『歓迎会の帰り』
信じたくないけど。
────それはやっぱりそういうこと?
そしたらもう、倉沢さんの前で器用に立ち回れる自信なんてない。
「もう……最悪」
今度は頭痛までしてきた。
きっとわたしの男運って呪われてるんだ。
洗面所に両手をつき、じっと鏡の中の自分を見返した。
また以前みたいに、自信がなさげで、どこか他人ごとのような表情のわたしが映っていた。