テキストサイズ

片恋は右隣

第4章 幸せになったらダメなんですか


****
数日が経ち、状況はちっとも変わらないままでいた。

自分のデスクに座りながら、わたしはPCの画面の文字を模様かなにかのように眺めている。
そもそもうちの会社は風紀に厳しい。
社内恋愛はよくても配置換え、双方の評価にも関わる。
社内結婚ならやんわりと女性側に依頼退職。
今どき、とも思うがそれが駄目という法律もないのが現状。
ちなみに不倫なんか問答無用で懲戒解雇だ。


『落ち着いた週半ばにランチでも?』

……たしかにわたしが倉沢さんにそう言ったけど、それどころじゃなかった。

あれから休憩室にも行かないようにしたし、極力席を立たなくなった。
さすがにうちの部署の上長にも近い席で、花邑くんも…ついでに倉沢さんも、下手なことはしないだろうと踏んでのことだ。


『どうしたの、今週忙しい?』

『体調悪い?』

自宅でも返信をしないわたしに倉沢さんが不審がっている。
なんどか彼からそういうたぐいのメッセージを受け取っていた。

そのたびになんと返せばいいのか、指をウロウロ彷徨わせ、結局スマホをデスクやテーブルの上に戻す。

夜はなるべく遅く帰るように気を付けてはいる。
でもそのうち、マンションに訪ねて来られるかもしれない。

わたしが生まれる前から鬼籍に入っている祖母。
いっそそれをもう一度危篤ということにして会社を休むとか?
……そしたら、今度は花邑くんに詮索されそうだ。


明日はもう歓迎会の日だし。
それをやり過ごしたら。

やり過ごしたら、なにもかも倉沢さんとは終わっちゃうんだろうか。

バレようが、わたしだけならまだ良かった。
花邑くんと話し合うだけなら?
ううん。 彼がどう出るのかが分からない。

ここのところ考えていた色んな疑問や推測が頭を巡り、だけど答えが出ない。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ