片恋は右隣
第4章 幸せになったらダメなんですか
「本日はこのような場を設けていただきありがとうございます」
ザワザワとした談笑が少し止み、見るとカウンターの手前で倉沢さんが挨拶を始めたようだった。
「最近はチャットやメールで用事が済ますことの多いなか、こうやって皆さんの顔をみてお話出来る機会を貴重に思い、楽しませてもらっています」
この隙に、外のオープンスペースの片付けに行こうとお店を出る。
部活で鍛えた昔からよく通る声だ。
「ここは元々自分の地元で、僕が育った思い入れの深い土地です。 この前は東京にいましたが、最初はディレクターの仕事を目指していたのに、なぜかトレーディングの方に回されまして。 人と関わりたかったのが、毎日夜中まで数字に振り回される毎日でした」
そういえば前の会社はブラックだったって言ってた。
彼の話を聞き思い出す。
「……ああ、そうそう。 僕じつは、ここ来て彼女と別れちゃったんですよねえ」
軽い調子でそう言う彼に、周りから「ウソー」「元気出せ」などと笑いがあがる。
「どこにでもある話です」多少の自嘲を滲ませて続ける。「仕事にかまけて、自分といる以外の彼女をみれてなかった。 仕事において、責務や勤勉さはたしかに大事です。 それを積み重ねていまの自分がいます」