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片恋は右隣

第4章 幸せになったらダメなんですか



「毎朝そのことを思える日々に、部長を始め、この会社や社員の方々に心から感謝しています。 若輩者ではありますが、自分はかなり図太い性格です。 ご指導ご鞭撻にはこちらから勝手に伺いますので。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします」

多少の笑いとすぐに大きな拍手が湧いた。
ラフに姿勢と表情を崩し、親しみやすく綺麗にまとまった挨拶というか、もはやちょっとしたスピーチだった。
手を叩いている何人かの人は顔を見合わせ、感銘を受けている様子が見てとれる。

ふと、店内と外を隔てている所に立っていたわたしの傍に花邑くんが並んでいるのに気付いた。

「……三上さんには合わないですよね。 ああいうタイプ」

合わないというより、相応しくない。
そう言われた方がしっくりくる。

「そうかもね。 でも懐かしい話だけど、花邑くんの歓迎会挨拶は面白かったよ。なんでいきなりバルーンアート?」

当時のことを思い出し、クスクスと笑う。

「そもそもおれ、人笑わせるの好きですから」

「そうなんだろうね」

「倉沢さんとはきつくないですか。 引っ張られて三上さんの個性が消えそう」

わたしはそれにはなにも答えなかった。

最初はたしかにそんな風に感じたんだけど。
いまは倉沢さんの考え自体はよくわかる。
普段の会話でも。

同じような道を辿ってきたからか。
昔同じものを見てきたからか。
わたしは彼のように、他人にそれを伝える術なんて持ってはいないけれど。


本日の主賓というのもあり、倉沢さんの周りには人が絶えなかった。
二度ほど彼とふと目が合い、どちらともなくそれを逸らす。


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