片恋は右隣
第4章 幸せになったらダメなんですか
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オフィス街や気軽に飲食が出来る北口と比べ、南口はどちらかというと落ち着いたお店などが多い。
鉄道会社が運営しているビジネスホテルといっても、外観は瀟洒なもので、シティホテルに遜色のないものだと感じた。
これが北口のラブホ街だったらガチャガチャとしてそうなものだけど、などと呑気なことを思う。
どうやら中一階がフロントらしい。
そこからエレベーターに乗り、降り口から見える窓の外のささやかな夜景に目を移した。
「……できれば話だけで、なんて甘いのかなあ」
ルームナンバーの並ぶ静かな廊下をのろのろ歩きながらそんなことを考える。
わたしは花邑くんを愛していない。
愛しているとまではまだいえないけど、倉沢さんに対するのとは違う。
花邑くんに対し、会いたいとか話したいとか向上心を持とうとか、そんな意欲を持てるとは思えない。
これも彼の言っていたインスピレーションみたいなものなのだろう。
……そして倉沢さんはこんなわたしに対してとても優しくしてくれた。
そんな彼に感謝している。
「やっぱり来ると思ってた」
奥まったドアをノックし、それを開けてくれた花邑くんの方も到着して間もないようだった。
まだ彼の鞄がソファの上に置いてあり、それを下におろす。
入ってすぐにベッドがあるような部屋ではなく、寝室は別にあるようだった。
ここには小さなカウンターバーのようなスペースと、ローテーブルにソファが配置してある。