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片恋は右隣

第4章 幸せになったらダメなんですか


悪態をつきながら立ち上がった花邑くんがドアノブを回す。

わたしと花邑くんの様子を交互に見てから、戸口に立っていた倉沢さんがほっとした顔をした。

「ふう、良かった。 間に合ったみたいだよね。 三上さん時間稼ぎサンキュ」

「で、倉沢サン?……今は係長か。 おれをどうするつもり?」

ゆっくりとした動作で室内に入ってきた彼が花邑くんと向き合った。

「いや、まあね。 穏便に。 いちお、いまおれの課の部下だし。 今日も準備とか、ありがとう。 それに仕事は出来るって評判だし。 お互いに後腐れなくやっていきたいと思うよ。 ただし、三上さんのことは諦めた方がいい。 普通にこれセクハラだから」

「……穏便に? 見た目に合わなく甘いんじゃね。それでホントにいいワケ?」

「だっておれもまた転職したくないしね。 職場居心地悪くなるのもやだし」

いつもの様子の倉沢さんにほっとした。
なるべく冷静に花邑くんと話していたのが良かったのかもしれない。


「ああ、送るよホテルの表まで。 ちょっと三上さん一人で落ち着かせたいし。 彼女がここ来たのは、お前のこと考えてのことだと思う。 ちゃんとあとからでも謝れよ」

「はあ……も少し上手くいくと思ってたんですけどね。 これでも三年片想いしてたワケだし……分かりましたよ」

そんな風に気の抜けた表情をした彼は久しぶりにいつもの花邑くんに戻った気がした。


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