片恋は右隣
第4章 幸せになったらダメなんですか
エレベーターを降り、彼についてホテルの出口近くで足元を見て飛び上がった。
「え……なに、これ血?」
ここへ来たときはなかった赤いシミが絨毯に広がっていたからだ。
「ああ。 酔っ払いが階段からコケたんじゃないの? おれが来たときはちょっと騒がしかったけど、部屋ん中で気付かなかった? 今は静かだね」
自動ドアをくぐり、表通りに出て辺りを窺うも静かなものだった。
「……余裕、無かったから。 ていうか、GPS。 設定いつ変えたの? わたしのスマホ」
ちょうどお店と住宅街を隔てるように立っているホテルの建物を通り過ぎ、いつもの駅の方角へと向かう。
まだ周辺に会社の人がいるかもしれないので、大回りをして脇道を歩くことにした。
「三上さんが寝てたとき。 さすがおれ。 ホテルの番号言ってくれたから、さらに助かったけど。 良かったよね?」
いいけど良くない。
勝手に指紋認証使ったってことでしょう、それ。
すると今週のわたしの居場所は彼に丸わかりだったというわけだ。
別にみられて困ることはないけど、この人、やることがどうもストーカーっぽい。
むっつりしかけたわたしの顔をひょいとのぞき込んでくる。
「実は怖くなかった? 腕でも胸でも貸す?」
で、いま誤魔化そうとしてるでしょ。
いい加減に、倉沢さんの考えが読めてきた。
「要らない……けど、後味悪いなあって」
「そうだね。 三上さんから見たらいい後輩だったんだろうし」