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片恋は右隣

第5章 わたしを愛してくれるんですか



「自信? いくらそんなのがあっても、人に嫌われるのが怖い気持ちなんて、誰でも持ってる。 ずっと連絡くれなくて気を揉んでたおれのことは思いやってくれないわけ」

そんなこといまは話してない、そう言おうとして口を閉じた。
彼が指を伸ばし、わたしが着ていたブラウスの、襟元のボタンをプツと一つ外す。

あの時の花村くんとおなじように頭をさげ、おなじ箇所に食まれる自分の肌。

ゆっくりとした動作で彼がそうした────最初に跡をつけられたときは驚いただけなのに、倉沢さんにそうされると、痛みと一緒にゾクリと身震いがした。

わたしの耳を通り過ぎる際に彼の声が届く。

「……してるときには断ったくせに、避けないんだ。 三上さんって肝心なとこが鈍感だよね」

上書きされたであろう所有のしるし。
熱を持ち始める首元を手で抑え、そこからドクドク脈が鳴る。

「頭では信用してるよ。 でも、どういう状況でコレつけられたのかって、モヤモヤしてたこっちの気持ちとかも考えたことある?」

責めているというよりも、傷付いてるような彼の表情に頭が真っ白になった。

肝心なときに、わたしはいつもこうなる。

「カッとしたのもたしかにある。別れ際に向こうが『これから朝までヤリまくりですか』とかふざけた口、きいてきたから」

そのときのことを思い出したのか、倉沢さんが苦々しげに視線を足元に置いた。

「それは置いといても、おれはいつまで三上さんのペースに合わせればいい? ハッキリ言う三上さんは好きだよ。 でもさ、与えられるのがNoって言葉ばかりだったら、次はどう動けばいい? あんまり言いたくなかったけど、こうなったのは三上さんが半端だからだろ」

彼になにか言おうとし、口を開きかけては黙る。
どの質問に対してなにをどう答えればいいのか。
ほんの十秒にも満たない時間────わたしにとってそれは十倍にも二十倍にも長く感じられた。

「これも謝らない。 本心だから。 ただ、三上さんのそういう顔見たくないから先に帰るよ」

わたしから目を背けた倉沢さんがオフィスの方向へ早足で歩いて行った。


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