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片恋は右隣

第5章 わたしを愛してくれるんですか


そういえば、と思い出した。
こんなお天気の日、彼の実家に、行ったことがある。
記憶を辿るとあれはたしか高校の頃。

そのときたまたま仲の良かった友達が、倉沢さんに告白をしたいからついてきて欲しいと頼まれたからだ。

その後の細かな顛末は分からなかったけど、「付き添ってくれてありがと。 でも、やっぱりね。 彼女がいるからって断られたよ」と意外にすっきりとした表情で言ってきた彼女に対し、わたしは複雑な気分になったのを覚えている。


車が勢いよく通りすぎ、跳ねた水がわたしのストッキングやヒールにかかり現実に引き戻された。

……いまの自分の気持ちはあの時に似ている。
わたしは彼女をうらやましく感じたのだと思う。
いつまでも、心のどこかに引っ掛かったような棘が抜けなかった。

そもそも告白なんて、対等にいる立場だから出来ることだ。

わたしが倉沢さんを遠くにみてしまうのは、いまでもそんな気おくれがどこかにあるから。

なんどか彼から好意らしきことを伝えられたときにも、それはまるで現実味がなく、言葉だけがフワフワ宙に浮いては弾けて消えた。


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