片恋は右隣
第5章 わたしを愛してくれるんですか
じきにマンションの前に着こうというところで、傘を持っている自分の指先に視線を注ぐ。
ヌードベージュの爪を派手な色のジェルネイルにでも変えたら、簡単に違う自分になれればいいのにと思う。
それでも少しずつ頑張ろうとした。
きちんと塗ったネイルも、いつもよりほんの少し高いヒールも。
けれども、憧れは憧れに過ぎないんだろうか。
わたしは彼に告白した彼女や倉沢さんみたいな人にとても追い付けない。
歩道の隅に寄ってから少しだけ足を止め、耳もとでせわしなく傘を叩く雨の音に聴き入った。
いっとき堰き止めたわずかな水の流れは自分の体を濡らさないというだけ。
結局は他の雨粒とともに道の端に流れていく。
水溝へと向かうそれと同じように、どうしても結果は変わらない。
でも、わたしは倉沢さんにそ自分の気持ちをきちんと伝えてない。
なのにされてイヤなことは言うなんて、ただの我儘だ。
こんなのは間違ってる。 間違ってるって認めなきゃ。
たとえ彼がどういう風にわたしのことを思っていたとして────そうしないと、いつまでも自分の中に蓄積された引け目のような気持ちは消えない、そんな気がした。
そう思い、来た道を戻り、十年以上振りに倉沢さんの実家へと向かう。