片恋は右隣
第5章 わたしを愛してくれるんですか
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表札を見なかったら通り過ぎていたと思う。
わたしは彼の実家の、黒い格子の門の前に立っていた。
一度建て替えたのだろうか。
昔はいかにも日本家屋といった風情だった彼の家は、普通にどこでもありそうな今風の建物に変わっていた。
意を決してチャイムを鳴らすと、しばらくして彼の母親らしき女性がインターホン越しに応えてきた。
「どなたですか?」そんな単純な質問にも、なにも準備していなかった自分に気付いた。
「み、三上美優といいます、倉沢さんはお帰りですか?」
それから少しの沈黙が続き、「ああ、亮二のことかしら」と返答があった。
いやこの家の人は全員倉沢さんだし。
そう思いついてますますテンパるわたしに「さっき帰って来たんだけどね、すぐに外に出ちゃって」そんな先方の返事に気が抜けた。
役割を終えたインターホンを眺め、わたしは彼の家の前でしばらくうなだれていた。
「……って、わたしってば……また」
普通、自宅なんか前もって確認してから行くもんじゃないの、今どき?
呆れ混じりに小さく息を吐いてから、スマホを取り出す。
その内容を考えていると、わたしの苗字を呼ぶ主の肉声が背後から聞こえた。