片恋は右隣
第5章 わたしを愛してくれるんですか
「三上さん? どうしたの。 こんなとこで」
倉沢さんは彼の実家前で立っていたわたしに一瞬、不思議そうに目をすがめ、「でも、ちょうど良かった。 ちょっと来てよ」と、わたしの背中に手を添えた。
どうやら彼の実家から会社寄りに戻りたいらしい。
「雨のとこ歩かせてごめんね。 寒くない」
「大丈夫……ですけど」
彼の意図がよく分からないまま、あとを付いていく。
倉沢さんは私服だったので、やはり一旦家に戻っていたのだと思った。
アウトドアでよく見かけるようなスポーツサンダルを履いていた。
「どこに行くんですか?」
「すぐ近くだし……っていうか三上さん。 うちになんか用だったの? で、なに死にそうな顔してたの。 なんか悩みでもあるなら聞くよ」
あなたのことで悩んでたんですけど……。
横並びで傘の隙間からわたしをのぞき込む、まるでいつもと変わらない倉沢さんに当惑する。
「悩み……というか、今日倉沢さん怒ってたので、そのことを考えて。 謝りたいって思って」
「ん、昼のこと? 怒ってないよ。 止めるとも言ってない。 あんなの喧嘩のうちに入んないし、怒られたと思ってた?」
人懐っこそうに目尻を細めて笑いかけてくる。
昼間のことなんて、彼にとっては大したことなかったんだろうか?
けれども、ひょっとしたら、実はこの人は無理をしているのかも。
会社では見せない彼の表情を見詰めながらそうも思う。
「だってわたし、あんな言い方……」