片恋は右隣
第5章 わたしを愛してくれるんですか
うむむと考えていると、急に自分の目の前の視野が大きく広がった。
「……わっ!? なに?」
腰と膝の裏が支えられてるとはいえ不慣れな景色に、倉沢さんの肩に手を回した。
取り落したわたしの傘を拾った彼が「はい」、と取っ手を渡してくる。
「ちょっと傘替わりになってよ。 昼間は言い方はこっちのがきつかったら、それについてはおれも謝ろうと思ってたんだよね」
「か、傘……?」
相合傘の互換バージョンだろうか。
言うならばいまの体勢は、遊園地かどこかで父親が幼児によくやってそうなあれに似ている。
彼の肘には畳まれた自分の傘があった。
わざわざ荷物増やすより、単純に二人で別々に差した方が良いのでは?
そう思いつつも、倉沢さんが濡れないように一応に気を配る。
「ここ、会社の近くで良さげな物件って無いかなって探したんだけど、秋の異動より前にズレてたおかげですぐに見つかった。 どう?」
本当に彼の実家から数分の距離だった。
彼が立ち止まって抱えているわたしを見上げた。
倉沢さんが目で指したそこには、赤いレンガ張りのマンションがある。
わたしの所よりも少しばかりお家賃がかかりそうだけど、しっかりとした造りの住まいだと思った。
広くて明るいエントランスを見るに、セキュリティもきちんとしてそうだ。
「ここに住むの? いいですね。で、でも倉沢さん、もうそろそろ、降ろしてくれたら有難いんですが。 まともに話も出来ないし」
重いだろうし。
周囲はもう夜といってもいい暗さだったけど、人が通りがかったら不審としか思われないわたしたちの絵面だと思う。