片恋は右隣
第5章 わたしを愛してくれるんですか
元の目線に戻り改めて倉沢さんを見上げた。
それは昨晩一緒に帰ってわたしの自宅で過ごしたような、こちらに対して気遣いさえ感じさせる彼の表情だった。
「……倉沢さん、いまなに考えてます?」
「なにって? エレベーター来たよ。 さっき業者が来てまだ荷物運んだだけだけど、場所覚えといて欲しくって。 おれんとこは309だから」
また微妙に質問をかわされたのは気のせい?
通された309号室とやらは、中をのぞくとガランとしていてまだ真新しかった。
すでに配置された大まかな家電、それから段ボールが各部屋に積んであるようだ。
電気ももう使えるらしく、廊下から見るとぼうっと曇ってけぶった大きなガラス戸からは雨音だけが響いていた。
「来られるのが嫌でも、来るのは構わないでしょ? これでいつでも会えるかな」
記憶の中でそんな会話を交わしたことを思い出す。
そのときに、咄嗟になんのフォローも伝えてなかった自分を情けなく思った。
「あれはそういう意味じゃなくて、家族と住むのは嫌だってことだったんです。 それにしても倉沢さん、なんか変ですよ?」
「そうだった? どっちにしろ家は出たいし。 それに、変なのは三上さんもだよ。 でもまあ、いいよ。 どうぞ」
なにも無い廊下に背中をつけて座りこむ、彼の言いたいことが分からずに聞き返した。
「え?」