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片恋は右隣

第5章 わたしを愛してくれるんですか



「三上さん、おれに話しに来たんじゃないの」

部屋の入り口で立っているわたしを見る倉沢さんの顔は、好意的ではあるけれど余所行きの、歓迎会での挨拶のときの様子を思い起こさせた。
二人でいる時も彼はこんな雰囲気をまとう。

高校を卒業してから、空白の14年。
結局、わたしは昔の倉沢さん……というか、彼への想いに引き摺られ過ぎていたんじゃないだろうか。

それからこくんと唾を飲み込んで、なるべく丁寧に分かりやすく話そうと試みた。

「実はわたし、最初から倉沢さんって気付いてたんです。 入社して自分の右隣に倉沢さんが座ったときから。 小学生から高校卒業まで憧れてた人だったから、物凄く驚いたんですよね。 ……そんなことはどうでもいいんですけど」

倉沢さんからはなんの返答もなく、訝しげとも驚きとも取れるみたいに、ただ形の良い眉を少し上げた。

「なのでこう、テレビや雑誌で長年の推しの人物が実はああだったりこうだったり、みたいな現実にはすぐにはついていけなくて……あの、なんて言えばいいのかな。 これはわたしの勝手な事情だから、もしもそのせいで倉沢さんが嫌な思いをしたのなら、謝りたいし」

「ちょっとごめん。 三上さんがなにを言いたいのかよく分かんないんだけど……」

そんな彼の言う通り、自分でもなにが言いたいのか分からなくなってきた。



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