片恋は右隣
第5章 わたしを愛してくれるんですか
焦りそうになる気持ちを落ち着かせようと、一瞬だけ息を大きく吸う。
「で、ですよね。 わたしいつも大事なときにこうで……なにが言いたいかというと……えっと。 わたしはいまの倉沢さんをもっと知りたいと思って、ちゃんと向き合いたいって。 こんなのは駄目ですか?」
咄嗟の勢いはあるけど、これはわたしの本心のはず。
心の中で深い息をつくわたしに、しばらくの間黙っていた倉沢さんが口を開いた。
「それっておれと付き合いたいってこと?」
「まだ会ってから時間が経ってないし……正直、そこまでは思えないです」
「んー……話が変わるみたいだけど」
いつも率直な彼らしくなく、文節の合間に時間を置いて、考え込むように立てた膝に両腕を組む。
ぼそぼそと話す言葉が雨の音と混ざる。
「中学とか高校とか……まあ、社会人になっても、知らない子に告られるのっておれ、苦手だったんだよ。 そもそも話したこともない相手に、そういう気持ち抱けるのが不思議でさ。 なんか動物園のゴリラとかカワウソ見てキャーキャー言われてる気分になんだよね」
「ゴリラ」
「高校んとき付き合った子もそうだったかな。 彼女の思ってた自分と実際のおれとは違ったらしい。 でも、困るんだよね。 おれはおれだから。 ってワケで、昔おれのことどう思ってたとかってのは、人となりぐらいは別として、少なくともこっちはあてにしてない」