鬼の姦淫
第1章 血のおくり花
お父さんが言った『あの子』とは、若林 義隆。
若林くんのことだ。
三年前に転校してきた彼自身の素行は非の打ち所がない。
成績優秀で、良い意味でどこか人間離れした外見と、大人びて面倒見のいい性格でもある。
ただし彼の家族や、同時期に彼の近くに越してきた人たち。
彼らは一様にこちらの町の人々とは一線をひいて生活していた。
なんどか、町のお店の人や近所の人と諍いを起こしたり、夜中に若林くんの家に集まっているのを見かけたとか。
『どこぞの暴力団から逃げて来たんじゃないかねえ』
そんな根も葉もない噂が流れていた。
それで高校でも愛理や私、一部を除いた生徒たちは、若林くんのことをなんとなく避け始めた。
そんな折に起こったあの事件だ。
今もまだ愛理を襲った犯人は捕まっていない。
愛理の第一発見者でもあり彼氏だった若林くんは、ますますここで孤立しているようだった。
自室のベッドのふちに座り、私は思わず悪態を口にした。
「馬鹿馬鹿しい……」