鬼の姦淫
第1章 血のおくり花
「小竹さんのとこも引っ越すそうじゃないか。 長年親戚ぐるみで付き合ってたが、一人娘がああなっては……。 せめて先方には気遣わせないように、ぎりぎりまで黙っててくれ」
視線を下げて首を振るお父さんに同調し、お母さんも静かに頷いた。
「萌子はまた部屋か」
私はダイニングの目隠し越しに立っていただけで、話を盗み聞きするつもりはなかった。
「ここにいるよ」
「萌子。 お腹は空かない?」
入口に立っている私にお母さんが訊いてきた。
「大丈夫だよ。 うち、引っ越すの?」
「今の状態ではとてもね。 高校へは週に二度ほどしか通えていないし、お母さんもパートさえ出られない。 お前、家にいる時間も塞いでるだろう」
「環境を変えて、きちんとしたお医者様にかかった方がいいって、以前ここの病院にもいわれたことだし。 あなたまだ、17歳なのよ」
あのあとはしばらく不眠が続いた。
食事も取れなかった。
そのせいで、私が両親を大いに心配させたことは事実だ。
ただ事件から二か月も経てば周りも落ち着いてきた。
それと同時に、私もなんとか普通の生活を送れるようになっていた。
「それに……萌子だけじゃないさ。 数年前から変な奴らが住みついて、ここがおかしくなったのはあれからだ。 萌子、お前もうあの子と関わっちゃいないだろうな?」
「……私、部屋に戻るね」
「萌子」
疑うようなお父さんの視線を避け、背中を追ってくるお母さんの声を聞きながら、私は自室へと戻った。