鬼の姦淫
第1章 血のおくり花
みんなは知らないからだ。
若林くんが愛理をどんなに大事にしていたか。
私たちは試験勉強をしたりとよく三人で一緒に過ごしていた。
あれから今もずっと、根拠のない噂や好奇な目を跳ね返し、休まずに登校している彼がどんなに強い人間か。
なにより傷付いているのは彼なのに。
『萌子、おれとは関わるな。 お前まで悪いうわさが立つ』
学校で今まで通り彼と接しようとした私に、若林くんがそう言った。
彼は愛理の葬儀にさえ呼ばれなかった。
品の良い顔立ちで厳しい表情を作り、それは彼の孤高の精神力を思わせた。
そんな人物に対し、疎遠にはしようとも、イジメなどで危害を加えようとする生徒がいないのは救いだった。
「─────若林くん」
もう私はあの林へ行くことは出来ない。
ただここを離れるのなら、彼のことだけが気がかりだった。