鬼の姦淫
第1章 血のおくり花
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「坂下さんちの萌ちゃんかねえ? ……こんな場所になんの用事なのかい?」
ここで下車しようとした私に、バスの運転手が訝し気に訊いてきた。
それはもっともなことだと思う。
「日暮れ前には、母が迎えに来るはずですから」
肉付きが良く人の好さげなこの人は、町の側の人間だ。
だから若林くんの家の最寄りのバス停で降り立った私のことを心配してくれてるんだろう。
なるべく明るい笑顔を作って私が言った。
「大丈夫ですよ。 歩き回ったりなんかしませんから」
「まあ、それなら……国道沿いは車もよく通るから。 そうそう、この小学校跡は不吉な土地っていわれる理由を知ってるかなあ?」
「……なにか神さまが祀ってあるとか…って、聞いたことがありますけど」
「それは違うんだよなあ。 神どころか。 ここの上妻山のふもとからずっと、昔っから鬼の伝承で有名な地でさね」
「鬼……?」
「そう。 昔、村人を襲ってはさらっては食ってたとか。 そんな鬼を鎮めるために作られたのが、ここの校舎裏にある祠だと」
私の顔を見詰めながら淡々と話してくる運転手さんの言葉に、うすら寒いものを感じた。
「……私、そんなことを言われて怖がるような歳じゃありませんよ」
平静を装い伝えると、運転手さんの口の端がニッとあがる。
「さすがにそっか。 小学生の子なら泣いて怖がるかと思ったがなあ。 でもなんにしろ、怖いところには変わりない。 用心しなよ」