鬼の姦淫
第2章 社の守り人
そしていつの間にか私の前に立っていた。
「────が?」
「え…は、はい!?」
つい、ぼうっと見惚れていたせいか、現実に引き戻された私が彼の言葉の端に反応した。
「義隆の知り合いかと訊いている。 動かないから具合でも悪いのかと思ったが違うのか。 それに悪いが、あの子は今は出かけている」
「……そ、そうですか。 彼のお兄さんですか? 初めまして、同級生の」
「名乗らなくていい。 わたしたちは特定の人間と親しくするつもりはない」
そう制されて返答に困った。
自己紹介を断られたのなんて初めてだったからだ。
その人がそれに気付いてくれたらしく、少し早い間隔をおいて言葉を繋いだ。
「ああ、すまない。 悪い意味ではなく……それはそうと、以前の事件の……女生徒。 申し訳なかった」
「え……?」
「もしも義隆がそばについてやっていたら、あんなことにはなっていなかっただろう。 あれは今も悔やんでいるようだ。 あの女生徒しかり、ここへ訪ねてくるほどには義隆と親しいのだろう?」
突然謝ってこられたので驚いたけれど、そういう意味かと理解した。
愛理も前にここに来たことがあるらしい。
「……いいえ。 それをいうなら私も同じですから。 私が部活で遅くなって、愛理に先に帰ってもらったんです」
もしも逆の立場だったら、私がああなっていたのだろうか。 そんなことを幾度か考えた。
同じことを若林くんも考えていた、そう思うと胸が痛んだ。
それにしても、この人。
単に顔が整っているといっても威風があり、だからといって上から目線という様子もない。
この人に限っては、町の人が言っているような悪い人には見えなかった。
どこか影のある雰囲気も若林くんと似ている。