鬼の姦淫
第2章 社の守り人
「お邪魔します」と断りをいれた。
その人がしたように大きな軒下で靴を脱ぎ、続いて中に入った。
外から見るよりも思ったより広い部屋だった。
奥には棚があった。
水瓶のような立派な漆器が棚の中央に置かれ、白菊の花が飾られていたのをみてギクリとした。
でもお彼岸をすぎたとはいえ、どこにでもある花だ。
私は頭の中に浮かびかけた光景を慌ててかき消した。
「ここは……神社ですよね? なんの神さまなんですか?」
「なんだと思う?」
きょとんとして彼をみると、薄らと綺麗な顔が綻んだ。
「特定の人間とは親しくならんとは言うも、退屈していたところだ。 少しばかり立ち話でもしようか」
彼の長めの前髪が頬に流れ、自分の胸がとくんと鳴った。
「たしかに……人を喰らったり悪さをする者もいるが、姿が似ているからといっても、あれは我々と異なる。いにしえの大神から派生した神の中には、角の生えた者もいたということだ」
『そう。 当時の村人を襲ってさらっては食っていたとか』
バスの運転手さんの話を思い出した。
「────鬼……」
ポツリと呟くと、目の前の人の眉があがる。