鬼の姦淫
第2章 社の守り人
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「中は明かりがないから、萌子こっち」
仲正さんが出て行ったあと、若林くんが入口の階段に腰をかける。
促されるまま私は彼と並んで座った。
「寒くないか」
久し振りに彼と話せると思うとうれしかった。
「ううん」
神社の両脇にはいくつかの電灯が並んでおり、間接照明のような役割を果たしているらしい。
薄ぼんやりとしか周りの景色は分からないけど、どこか幻想的な雰囲気を作っていた。
「ここの近所にまだおうちがあるの?」
「ああ。 ここから見えるあそこがおれんとこな……けど、なんでこんなとこまで来たんだよ。 関わるなって言っただろう」
でもやっぱり、よくは思われていないようだ。
私のことを心配してくれてると分かってはいても、胸がチクリと痛む。
「私、来月に引っ越すことになったんだよ。 その前に、ちゃんとお話をしたくって」
そう言うと彼が黙った。
「……若林くんはずっとここに? 進学とかで、会えたり?」
「────いや」
「お父さんの跡を継ぐの? 若林くん頭いいのに」
「親父の跡?」
「この神社の神主さんなんでしょう?」
「神主か」
そう呟いて、ややのちに彼がふ、と笑った。
あれ? でも。
『いにしえの大神から派生した神の中には、角の生えた者もいたということだ』
仲正さんの話を思い出した。
「若林くんって悪い鬼なの?」
ほんの冗談か、まるで現実味のないおとぎ話のように話を振ってみただけだ。
彼の方向からピリッと硬い空気を感じ、若林くんがじっと私を見ていることに気付いた。