鬼の姦淫
第1章 血のおくり花
私の肩に彼の指がきつく食い込んでいた。
「……愛理、は……? お母さんが、おばさんから電話もらって、ウソだよね? 昨日も私たち、一緒に」
人垣の向こうに進もうとする私を引き留めようとしているようだ。
「……萌子は見ない方がいい。 愛理も見られたくないだろ」
彼の表情は歪み、唇や声は細かく震えていた。
「私は愛理に会いたいだけだよ。 親友だから」
『────まだ17歳だろう? ────一体なんの恨みがあって、こんなむごい』
『────母親は卒倒して搬送されたらしい────犯人は鬼だよ』
そんな雑音がとおくに聴こえる。
「愛理、萌だよ。 遅くなったね、ごめんね。 若林くんお願い離して!」
伸び放題の下草のうえに、まるで規則性もなく散らばっている、おびただしい菊の花が異様なもののように目に映った。
白やピンクや赤のそれらは、お店で売っているような切り花だったからだ。
その中央に黒く覆われた布が膨らんでいて、そこから投げ出された二本の素足がみえた。
「────おじさん」
愛理のそばで、崩れ落ちて烈しく嗚咽している彼女の父親が目に入る。
私が彼女と会ったら、愛理は起きてくれるような気がしていた。